2023年 09月 16日
【仕事】社会保険とか何か
いろいろな説明のしかたがあるとは思いますが、私自身はこの言葉を2つの観点で理解しています。
① 社会保険は「保険」である
② 社会保険は「社会保障」の一態様である
① 社会保険は「保険」である
そもそも保険とはなんぞや、ということですが、ざっくりいうと、あらかじめ同じ危険にさらされた人々がお金を拠出しておき、その危険が実際に実現した場合に、拠出されたお金の中から、その危険をカバーするためのお金を支払うしくみ、ということになります。ここでいう「危険」のことを「保険事故」、拠出するお金のことを「保険料」、支払われるお金のことを「保険金」、保険金を支払う人を「保険者」、保険金により保険事故をカバーされる人を「被保険者」と呼んだりします。
そして、保険者が国や公的機関であるものを「社会保険」と呼び、保険者が私企業であるものを「民間保険」と呼んだりします。
以上のような保険の基礎を学ぶにあたり、有斐閣アルマの保険法の本がとても参考になります。
② 社会保険は「社会保障」の1態様である
国が行う社会保障は4つの態様に区分されています。具体的には、社会福祉・公的扶助・公衆衛生、そして社会保険の4つになります。社会保険とそれ以外で大きく異なるのは、その財源です。社会保険以外の社会保障の財源は主に税金から捻出されますが、社会保険の場合は、被保険者が納めた保険料が財源になり、より受益者負担の性格が強いといえます。その意味で、社会保険は、社会保障の目的を達成する手段として「保険」という手法を用いたものである、と説明することができると思います。
国が用意している社会保険は、医療保険・年金保険・介護保険・雇用保険・労災保険の5つになります。我々サラリーマンとの関係では、医療保険は「健康保険」、年金保険は「厚生年金保険」とよばれます。人事関係の仕事では、従業員のために社会保険の手続きをとったり、従業員に支払う給与から社会保険料を差し引いて支給し、従業員の代わりに公的機関に納付したりする必要があるため、人事をやっていた人の中には社会保険制度に大変詳しい人がいたりします。私自身はそこまで極めるに至りませんでしたが、しっかり勉強すると、結構面白い世界なのかもしれないなと思います。
この点、社会保険を学ぶためにいろいろな本を探してみても、たいていの本は、上記5つの社会保険の説明から入る本がほとんどです。社会保障というものの全体像から、あくまでその一態様、一つ手段として、「社会保険」という制度がある、という説明から入る本は、ほとんどありません。そのような数少ない本の一つとして、西村健一郎先生の「社会保障法入門」があります。個々の社会保険制度について細かく解説した本は多いですが、社会保険制度をより俯瞰した形で理解したいという方にとっては、貴重な一冊になるかと思います。
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by Katzung01
| 2023-09-16 20:14
| 仕事
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2023年 09月 08日
【読書】日本国憲法
本書は、日本国憲法について何かを論じたりした本ではなく、日本国憲法の条文自体を冊子にした本です。
同じような本はほかにもいくつかあるかもしれませんが、本書には英語版も載っているので、日本語だけでは意味がうまくつかめない、あるいはイメージがつきにくい部分も、英語版を参照することで、イメージをつかむこともできます。
むしろ英語版が原案なのだとすれば、英語のニュアンスがどう邦訳されたかを知ることで、本来どのようなことを規定したかったのかを理解する一助になると思っています。
本書は学生の頃にも買ったことがあるのですが、あらためてじっくりと読んでみたいと思い立って、購入に至りました。
会社から家に帰るまでの間、電車の中で読むものがほしいなと思っていたのですが、デジタルデトックスしたいときや、仕事から家に帰るまでの間に気持ちを切り替えたいときなどに、ポケットサイズで気軽に読むことができる本として、この「日本国憲法」を持ち歩くことがあります。
自分の幼少期を思い起こしたときに、小学校二年生までと、小学校三年生以降とでは、物事に対する向き合い方や、日々過ごすうえでの意識が明らかに変わりました。それは、「平和主義」という言葉を知り、その考え方に大変感銘を受けたからです。
我々には戦争をする権利があるが、それを行使しないのだと。そういう「主義」なのだと。
難しいことは抜きにして、率直に自分もそうありたいと、子供ながらに思ったのだと思います。
それ以降、私は誰かとけんかをすることがなくなりました。
さらに、小学校高学年になると、そもそもけんかをしないために周囲にどう接したらよいか、考えるようになりました。
そして大人になった今、会社員として、様々な社内政治や思惑に対峙する機会が増えてきています。そのなかでどのように立ち回るか、難しい場面も出てきています。そんな中、自分を見失わず、本来の自分の理想とする生き方、「主義」に立ち返ることで、自分なりの解決の糸口が見えると思っています。
物事を平和的に解決する。これはあくまでも理想ですが、理想というのは、人が一貫性を保ち、ぶれずに前に進むために必要なものなのではないかと思います。理想はあくまでも理想、現実はそうはいかない、ということもあるかとは思います。しかし、あるべき姿をイメージとして持つことは大事だと思います。それにより、現実から目をそらすということではなく、目の前の現実を少しずつでも理想に近づけていこうと考えられるようになるのではないかと思うのです。
一人一人が、それぞれの考えを自由に提唱し、政治に責任を持つことができる「民主主義」が浸透した世界。
すべての人の「基本的人権」が尊重された世界。
そして、戦争が起こらない、恒久的な「平和」が維持された世界。
そのような世界が理想だと、みんなが思いながら日々の生活をおくっていれば、世の中は少しずつでもそういう理想に近づいて変わっていくのではないかと、そんなふうに思っています。
そのうち憲法が改正される日も来るかもしれませんが、日本国憲法前文の精神はぜひ生かしてほしいなと、個人的には思っています。
(参考:日本国憲法 前文)
日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
We, the Japanese people, acting through our duly elected representatives in the National Diet, determined that we shall secure for ourselves and our posterity the fruits of peaceful cooperation with all nations and the blessings of liberty throughout this land, and resolved that never again shall we be visited with the horrors of war through the action of government, do proclaim that sovereign power resides with the people and do firmly establish this Constitution.Government is a sacred trust of the people, the authority for which is derived from the people, the powers of which are exercised by the representatives of the people, and the benefits of which are enjoyed by the people.This is a universal principle of mankind upon which this Constitution is founded.We reject and revoke all constitutions, laws, ordinances, and rescripts in conflict herewith.
We, the Japanese people, desire peace for all time and are deeply conscious of the high ideals controlling human relationship, and we have determined to preserve our security and existence, trusting in the justice and faith of the peace-loving peoples of the world.We desire to occupy an honored place in an international society striving for the preservation of peace, and the banishment of tyranny and slavery, oppression and intolerance for all time from the earth.We recognize that all peoples of the world have the right to live in peace, free from fear and want.
We believe that no nation is responsible to itself alone, but that laws of political morality are universal; and that obedience to such laws is incumbent upon all nations who would sustain their own sovereignty and justify their sovereign relationship with other nations.
We, the Japanese people, pledge our national honor to accomplish these high ideals and purposes with all our resources.
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by Katzung01
| 2023-09-08 21:12
| 読書
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2023年 09月 01日
【読書】内部統制の知識
内部統制というと、大きく2つの流れがあります。
ひとつめは、不正会計を防ぐための会計監査のリスクアプローチの手法として、内部統制のしくみがきちんと構築されているか、という観点での監査が行われるようになった、という流れです。
ふたつめは、取締役に求められる善管注意義務の内容として、内部統制システムの構築義務というものがあり、従業員の不正行為に経営者が直接関わっていなかったとしても、経営者が適切な内部統制システムを構築していなかった場合には、内部統制システム構築義務違反として任務懈怠責任を問うことができる、というように、取締役への責任追求のための判例理論が確立されるに至った、という流れです。
内部統制を進めるときの難しさは、そもそも内部統制には以上のような異なる文脈があり、それらの文脈の中で、法務、経理、IT、営業、品質管理など様々な分野の人間がそれぞれの視点でこれを進めているので、その全容が理解されにくく、取り組みに過不足が生じやすい、という点にあると考えています。
これを解決するための一助になるのが、いわゆる「日本版cosoフレームワーク」であると考えています。日本版は、オリジナルが定めた「3つの目的」と「5つの構成要素」にそれぞれ一つずつの要素を加え、「4つの目的」と「6つの構成要素」によって構成されています。日本版で加えられた目的は「資産の保全」、加えられた要素は「ITへの対応」ですが、そもそも取締役が会社財産の善良な管理者であることを求められていること、日本企業が直面しているDXの要請などを考えると、これらの目的や構成要素を加えたほうが、より日本企業の実情に合っていると思います。
このフレームワークをあらゆる部門にあてはめて、過不足なく実施できているか、ということを確認していくのが、その企業に合った内部統制システムを構築していくうえで、最も確実で手戻りのない方法ではないかと思っています。
本書は、以上のような内部統制の大きな流れや、日本版cosoフレームワークの内容について、コンパクトな紙面で丁寧に説明している点で、内部統制に関する業務を担当する方が最初に手にとるべき一冊にふさわしい良書であると思います。
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by Katzung01
| 2023-09-01 20:19
| 仕事
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2023年 01月 25日
【読書】金融読本
私が経理部門で勤務していた頃、「金融とはなんぞや」を学ぶために購入した本が「金融読本」です。
私は文系学部の出身なので、私の周りにはいわゆる「金融系」に就職した人がたくさんおりました。しかし、当時、司法試験の勉強に終始し就職活動をしていなかった私にしてみれば、「金融」ってなんぞや?という感じでした。
そんな人間が、いざ就職をして、最初に配属されたのが経理部門でした。
経理部門の中でも、決算業務がメインの部署であれば、簿記や会計の学習がメインになるかと思います。しかし、私が配属された部署は、主に現預金・手形小切手・各種債権・株式等の管理を行う部署で、銀行や証券会社などの金融機関とのやり取りも多かったため、金融に関する理解が必要となった次第です。
そういった意味では、あらゆる経理の方が本書を手に取る必要はないと思うのですが、資金管理・運用・調達に関わる部署や金融機関とのやりとりが発生する部署の方であれば、本書を一読することで業務の理解を深めることができるため、おすすめです。
金融論の本というのは探せば他にもたくさんあるのですが、中でも本書は、金融について、イロハのイからきちんと論じられていると感じました。
本書によれば、「金融」とは「資金の貸借」のことであると定義されています。そう言われてみれば、なるほど、たしかに、読んで字のごとく、「金融」とは「金」の「融通」なわけです。これを司る企業が「金融機関」と呼ばれ、ここで販売される商品が一般に「金融商品」と呼ばれます(会計上は金融資産(現預金・有価証券・債権等)や金融負債(支払手形や支払債務等)を生じさせる契約のことを「金融商品」と呼びます。これは、一般的な用法と少し異なるかもしれません)。
その他、本書では「金融」の定義以外にも、「金融」について以下のようなことを学ぶことができます。
・銀行の成り立ち(ヴェニスの商人が金庫業を始める→預けられた余裕資金の貸し出しを始める)
・中央銀行とその他の銀行との関係、お金の流れ
・金利の設定のしかた(資金調達コスト+マージン)
特に実務上重要だったのは、金利についての理解です。たとえば、他社への融資にあたり、適切な金利をどう設定すべきか、という問題があります。
ここで、そもそも一般的に金利というものがどのように設定されるのか、という話が出てきます。これをざっくり言うと、貸し手の資金調達コストにいくらかのマージンを乗せて貸し出す、という話なわけです。
この資金調達コストというのも、金融機関が市中から調達するときのレート(コールレート)と、我々一般人や一般企業が金融機関から調達するときのレート(貸出レート)では異なるわけです。なぜなら、我々が金融機関から調達する際の金利は、金融機関の調達金利にいくばくかのマージンが乗せられたものであるからです。
そういうしくみがわかってくると、市中金利が変われば、当然、金融機関が設定する利率も変わってくるであろうということが、感覚的にもわかってきます。それにより、当社の資金調達コストも変わってくるわけですから、当社から他社への融資を行う際には、当然それを考慮して、損のないように利率を設定する必要がある、ということもわかります。
金融関係の会社に勤める方や、金融機関と業務上お付き合いのある方で、金融の基本をきちんと理解しておきたい方は、本書を手にとっていただくのがよいと思います。
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by Katzung01
| 2023-01-25 21:47
| 読書
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2023年 01月 22日
【読書】職業としての学問
「職業としての学問」は、ドイツの学者であるマックス・ウェーバー(1864-1920)の著作です。彼の著作の中では、「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」という本のほうが有名かもしれません。
「職業としての学問」では、学問を職業とすることの幸福と厳しさについて、当時の社会情勢に基づいて書かれています。当時と現代とでは状況がだいぶ異なるはずですが、それでも、今に通じる、的を射ていると感じる部分があるのは、学問のもつ普遍性ゆえ、かもしれません。
われわれサラリーマンは、会社との関係では、給料をもらえるかわりに労務を供給するということが求められています。したがって、サラリーマンの学問の取り組みは、会社との関係においては、より良い労務の供給に資する限りにおいて、有益と評価されるわけです。
この点、実務における学問の価値というのは、個々の具体的な事象に対し、横断的、あるいは普遍的な説明を与えることができること、これにより、同様の事象の発生を予測、あるいは防止できること、ではないかと思います。逆に、普遍的な理論を、目の前の個別具体的なケースにあてはめていくことで、問題解決の手順を与えることができる、ということもあります。
このように、抽象と具体を行き来することができるようになる、というのが、学問をする意味ではないかと思います。その時々の話す相手や状況によって、求められる抽象化レベル・具体化レベルというのが異なってくるとは思いますが、これに臨機応変に対応できるようになる、というのが、学問の力だと思うのです。
そういった意味では、我々サラリーマンは、常に現場の研究者であるのだと思います。常日頃、具体的ケースに接する中で、この経験をどこまで一般化できるだろうか、そしてそれをどのように新たなケースに用いることができるか、日々考えるわけです。すなわち、個々のケースの集積からの帰納、そしてそこから導き出された経験則から個々のケースへの演繹、これを繰り返しているわけです。
「職業としての学問」は、学問を専業とすることの難しさを説いています。われわれサラリーマンは、学問に専念することはできませんが、日常の中で学問の成果を用いつつ、その適用の結果をまた観察し、その効果や限界を検証し、より実務的に有用なものへと洗練させていくというプロセスを通じて、自らもまた学問を行うことができるのではないかと考えています。
われわれサラリーマンのような最前線の人間たちが、自らの経験を一般化・体系化していくということが、人類の発展にとって大切だと思いますし、そのような一般化・体系化に役立つ概念や枠組みを提供してくれるのが、やはり学問であると思っています。
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by Katzung01
| 2023-01-22 14:27
| 読書
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